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オタクが嫌いな荻上です。
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卒業式があった。
笹原さんたちとの、別れの儀式だ。

春日部さんは袴姿だった。
すごく似合ってた。
大野さんは在籍組なので、袴じゃなかった。
春日部さんが「着ればいいじゃない。ある意味コスプレでしょ?」なんて言ってたけど、そういうのとはちょっと違うらしい。
私にはよく分からない。
笹原さんと高坂さんはスーツ姿だった。
高坂さんは黒のスーツがとてもサマになっていた。
こういう言い方は失礼かもしれないけど、夜の仕事が似合いそうな格好だった。
笹原さんは、うん、普通。
実に笹原さんらしい格好だった。
笹原さんの妹も来てて、その子にちょっとからかわれた。
腹が立ったけど、これくらいで怒ってるようではこれから先うまくやっていけないと思って、ガマンガマン。

その後、着替えやらなにやらで一旦解散となった。
私と笹原さんは、笹原さんの「野暮用」で部室へ。
大野さんも部室に行くはずだったんだけど、お手洗いに寄るって言って途中で別れた。
それで、まあ、その「野暮用」自体は別にどうでもよかったんだよね。
お気に入りのエロ同人誌がどうとか、そんなこと今更気にしていたら身がもたないし。
問題は、私に関することだ。
実は今日は、ちょっと身だしなみに気を遣ってきたのである。
髪型はもちろんのこと、服装だっていつもよりは気合を入れてきた。
笹原さんにもらったペンダントだって身に着けてた。
そのことにすぐに気付いてくれなかったことが、少しショックだったんだ。
「何か忘れてないですか?」って聞いたら気付いてくれたけど、そんなのもう遅い。
見てすぐ気付いてたって言ってたけど、絶対ウソだ。
だったら「あ、そっか」なんて言葉、出てこないはずだ。
……でも、そういうところが、笹原さんの笹原さんたる所以だったりするのだ。
だから、許すことにした。

入学当初のことを思い出していた。
あの頃の自分に「笹原さんと付き合うんだよ」と言っても、絶対信じないだろう。
人生なんて、何が起きるか分からない。
あれから本当に色々あった。
私がここで過ごした時間は笹原さんの半分だけど、それでも色々あった。
そんなことを考えてたら、なんだか気分が高揚してきた。
笹原さんの隣に行って、私は言った。
「早くしないと大野さんが来ます」
笹原さんは驚いたけど、すぐに私の肩を抱いて、自分の方に引き寄せた。
そして、いざキスしようとしたときだった。
異変に気付いたのは笹原さんだった。
「大野さんトイレにしちゃ長すぎねえ?」
言ってすぐに窓の外に振り向き、笹原さんは携帯を取り出す。
次の瞬間、高坂さんが電話に出ながら、視線の先から姿を現した。
そこには、さっき別れたはずのみんながいた。

そう。大野さんたちは別室から、私たちのやり取りを盗み見ていたのだ。

その後の私はものすごく不機嫌だった。
もう慣れたと思ってたけど、やっぱりこういうイタズラは好きになれない。
最後の最後にこんなことしなくてもいいのに。
とにかく不機嫌で仕方がなかった。
額にはいくつも青筋が立っていたと思う。
そんな私に向かって、大野さんは言った。

「どうしよう……、荻上さんに次の会長をお願いするつもりだったのに……」

急だった。
あまりにも急だった。
いや、こういう場だから出てきて当然の言葉なのかもしれないけど、心境的には突然のことだった。
私は会長になんてなりたくなかった。
ふさわしい人材だとかなんとか言われても、嫌なものは嫌だった。
もう本当に嫌だった。
けれど、それでも引き受けることにした。
そのときの私は、もうほとんど開き直っていた。
引き受けるかわりに、会長の権限は全て使い切るつもりだった。
「とりあえず大野先輩はコスプレ禁止」って言ったら、この世の終わりみたいな顔をした。
もちろん冗談だったけど、これは大野さん用の反撃に使えるかもしれない。
追い詰められたときにはこの手でいこうと、密かに思った。
そんな私の会長としての最初の仕事は、みんなを追い出しコンパへ向かわせることだった。
別れと、新しい出会いのための儀式の、締めくくりとしての祝宴が始まろうとしていた。

この2年間、いろんなことがあった。
これからもたくさんの出来事が待っているのだろう。
そのことを想像しただけで胸は高まる。
楽しいことだけじゃない、悲しいことだってたくさんあるかもしれない。
それでもどんな出来事だって、いずれ笑って話せる思い出になると、私は信じている。

未来のことに想いを馳せながら、ひとまずは筆を置くことにしようと思う。
この日記を書くことで、私自身は何かが変わっただろうか。
今は分からない。
分からないけれど、私は明日に向かって歩き続ける。
がむしゃらに精一杯、自分の足で歩き続ける。

今までこの日記を読んでくれた全ての方に感謝したい。
皆様に少しでも何かを感じてもらうことが出来たのなら、それで満足だ。
ありがとう。
そしてまたいつか、会える日を信じて。


現代視覚文化研究会 会長  荻上千佳

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女性
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登場人物

笹原さん:サークルの先輩。前会長。彼氏。強気攻め。
大野さん:サークルの先輩。現会長。コスオタ。
高坂さん:サークルの先輩。ゲームが上手い。総攻め。魔王。
春日部さん:サークルの先輩。オタクではない。
斑目先輩:サークルのOB。とてもお世話になった先輩。総受け。
田中先輩:サークルのOB。健気攻め。
スージー:奴はとんでもないものを盗んでいきました。
朽木:朽木。
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